Sheetmetal ましん&そふと 「第2変革期」にプレスから板金へ完全シフト

日本で精密板金、中国でプレス加工を展開

㈱新生工業は京都府久世郡にある精密板金加工企業。
1970年に現会長の中山金生氏がプレス加工企業として創業、板金加工も取り込みながら、京都・滋賀・大阪の上場企業―半導体製造装置、
ゲーム機、アミューズメントマシン、センサー、流量計、道路標示機、蓄電池といった大手メーカーへの部品供給を手がけることで発展してきた。

現在同社が展開している事業は、
①日本国内における精密板金事業、
②中国におけるプレス事業、
③ソフト開発事業―の3つ。

もともとプレス部品メーカーとして発足した同社だが、主力得意先のひとつである大手ゲーム機メーカーが2000年代に入ってから、
中国に工場を持つ台湾系EMS企業に製造委託する方針にシフト。日本国内での部品加工の需要は一部試作が残るのみとなった。
同社はこうした海外シフトの動きに対応し、2004年に中国へ工場進出。
EMS企業に連なるサプライチェーンの一角として、プレス部品の供給を行うようになっていった。

これにともない、日本国内の本社工場が手がける仕事は板金中心へと変わっていった。
売上構成も、半導体製造装置メーカー向けの仕事が全体の50%超を占めるまでになり、ステンレス中心の多品種少量生産に対応している。

現在の従業員規模は、日本の本社工場が50人、中国工場が70人。
2015年9月期の売上高は約16億円で、このうち約30%が中国でのプレス事業、約70%が日本国内での板金事業となっている。
また、このほかに同社のグループ企業で、得意先のゲーム機・アミューズメントマシンメーカー向けにゲームソフトなどの企画・開発・販売を行うソフト開発会社、㈱ジュピターの売上高
が約5億円あり、グループ連結で年商20億円超えの規模となっている。

「第2 変革期」に板金専門工場へ転換

左から中山誠社長、中山有専務、増井哲也工場長
左から中山誠社長、中山有(たもつ)専務、増井哲也工場長

2013年に3代目社長に就任した中山誠氏は、創業45周年にあたる2015年度を「第2変革期」と名づけ、本社工場のレイ アウトを含む生産プロセス全体の刷新に取り組んだ。

「変革の最大の眼目は、プレスから板金へのシフトです。1982年に現在地に工場移転した頃は板金・プレスの割合がおよ そ半々でしたが、その後、少しずつ板金の比重が高まっていき、ゲーム機向けプレス部品の仕事が中国へ移管されたことが 決定打になりました。本社工場ではプレス工程がスペース全体の40%程度を占めながら、ほとんど稼働していない状態で した。今回のレイアウト変更では、プレス工程をすべて撤去し、工場スペース全体を活かして板金に特化した工場にリメイ クしました」(中山社長)。

専務取締役の中山有(たもつ)氏は「プレスから板金への完全シフトというドラスティックな転換を図るにあたっては、様々 な調整が必要でした。当社はプレスからスタートした企業ですから、お客さまにも『新生工業といえばプレス加工業』という イメージが定着していますし、プレスの仕事も少ないながら残っています。社内で協議を重ね、お客さまにもご説明に上 がって、どうにかご了承をいただきました。お客さまにご迷惑をおかけすることがないよう、残っているプレスの仕事は、中国 工場や近隣の企業の協力を得ながら対応しています」と語る。

2014年末にはおおよその計画が固まり、ゴールデンウィークの電気工事、8月の新設備導入とレイアウト変更へ向けて、 着々と準備を進めていった。

LC-C1AJ が新生産体制の目玉

生産管理システムAPC21の現場端末で着手・完了情報を登録
生産管理システムAPC21の現場端末で着手・完了情報を登録
ブランク工程の主力、EMZ-3510NTP+ASR-48M
ブランク工程の主力、EMZ-3510NTP+ASR-48M
シングルパンチプレスHMX-3510NT
シングルパンチプレスHMX-3510NT

レイアウト変更に併せて新たに増設したのが、同社初の複合マシンとなるファイバーレーザ複合マシンLC-2512C1AJ と、ベンディングマシンHDS-1703NTだった。これにより、ブランク工程はLC-C1AJ、CO2レーザマシン、パンチングマシ ン3台の5台体制となった。

工場長の増井哲也氏は「複雑な形状の製品が増えてきたことで、前々から複合マシンがほしいと考えていました」と振り返る。

同社で手がける仕事はリピートの割合が90%と高いが、それでも新規品が月間平均400件、ピーク時は800件ちかくにな る。それを4名の担当者の手で展開・プログラムを行っていくが、複雑形状の製品をニブリングやコンタリングで加工すると なると金型割付に多くの時間が取られてしまう。加工時間もかかるうえに、品質もよくないため仕上げの工数も取られる。 CO2レーザマシンも保有しているが、バーリングやタップといった成形加工を含む製品が多いため、レーザマシンで加工し た後はセットプレスやタッピングマシンでの2次加工も必要になる。プログラム、ブランク、仕上げ・2次加工―それぞれの 工程の負荷を低減するためには複合マシンしかない、と考えた。

中山社長は「LC-C1AJの導入は、これまでできなかった領域の仕事を手がけていくための10年先、20年先を見据えた戦 略投資です」と語る。

中山専務は「計画の当初段階ではCO2レーザの複合マシンを検討していましたが、それでは単にボリュームを消化するだ け。加工領域を拡大し、対応できる仕事の幅を広げるためにはアルミ・銅・真鍮などの高反射材にも対応できるファイバー レーザを搭載したマシンを導入したいと考えました。HDS-1703NT(170トン・3m)も同様の考え方で、従来は FBD-1253FS(125トン・3m)が最大サイズでしたが、ステンレスの厚板を加工するときには加圧トン数が不足しがちな ので、将来を見据えて加工領域の拡大を図りたいと考えました」と語っている。

自動化へ向け、稼働率を高める

計10台のペンディングマシンが並ぶ曲げ工程
計10台のペンディングマシンが並ぶ曲げ工程
LC-C1AJと同時に導入したHDS-1703NTによる曲げ加工
LC-C1AJと同時に導入したHDS-1703NTによる曲げ加工

主力が半導体製造装置向けのため、取り扱う材料はステンレスの比率が60~70%と高い。SUS304のBA材が中心だが、 鏡面だとキズが目立つため、内部部品にはSUS304の2B材や防錆性を兼ね備えたNSS442が増えつつある。

センサーや流量計などの取付金具や筐体、高速道路のトンネルのLED関連などには、SPCCが多く用いられる。

板厚はいずれも1.0~2.0 ㎜が中心。溶接組立時の金具や補強材などには2.0 ㎜超の材料も使われている。

ブランク工程の主力はサイクルローダー(ASR-48M)、自動金型交換装置(PDC)付きのパンチング自動化セル EMZ-3510NT。ただし、平均ロットサイズが10個以下と少なく、今のところネスティングを行っていないため、定尺材から の多数個取り、または端材の手差し加工で運用している。

メインの半導体製造装置関連は受注変動が激しいうえに極端な短納期が求められる。そのため同社は以前から、得意先 から提示される内示をもとに標準部品のまとめ生産を行い、安全在庫から払い出すことで対応している。

こうした背景と設置スペースの問題もあり、LC-C1AJはひとまず単体機での導入となった。導入から3カ月(取材時点)、 現在は複雑形状で複合加工が必要な製品を中心に、LC-C1AJでの加工を少しずつ増やしている段階だ。

「まだ3カ月しか経っていないので、導入効果の精査はこれからですが、加工スピードには満足しています。メンテナンスの 負担軽減についても実感を持てています。ランニングコストも、増設にしては、気になるほど増えているわけではないようで す。今後は稼働率を高めるとともに、ネスティング対応を進めていきたいと考えています。目処が立てば古いマシンを出して 自動棚を後付けし、24時間稼働を実現することも考えていきたい。ゆくゆくは、小ロットにも対応できるベンディングロボッ トや溶接ロボットによる自動化も検討していくことになるのではないでしょうか」(増井工場長)。

半導体製造装置部品の溶接工程
半導体製造装置部品の溶接工程
組立工程
組立工程
検査・出荷工程
検査・出荷工程

工場見学を積極受け入れ、受注拡大を目指す

中山社長は「新レイアウトが完成してからは、お客さまの工場見学を積極的に受け入れています。 9月から11月末までの3カ月間で60人ちかく。 見学の目玉はやはりLC-C1AJで、お客さまに足を運んでいただく良い機会になってくれています」と語っている。

「調達担当者だけでなく、経営層や設計担当者の方々にもご覧いただいています。 実際に工場を見ていただくと、『こんなこともできるの』『プレスの会社と思っていたが、実は板金が得意だったのか』と驚かれます。 現場の社員はお客さまがいらっしゃることで緊張感をもち、お客さまは工場の現場スタッフが身近に感じられて 相談しやすくなるといった好循環が生まれています。 特にお客さまの設計担当者は、困りごとや相談したいことをたくさん抱えていらっしゃることが伝わってきました。 工場見学をきっかけに当社の現場に気軽に相談してもらえるようになれば、VAやVEの可能性は格段に広がると思います」。

「まずは従来のお客さまへ向けてPRしていますが、新規のお客さまも積極的に開拓しています。 すでに新規のお客さまも4~5社、工場見学にいらっしゃっていて、成約の実績もあります」(中山社長)。

「ただし、当社の最大の課題は受注の平準化です。新規の仕事を獲得して成長していきたい反面、 そうすると半導体製造装置関連の仕事がピークに達したときにパンクしてしまう。ここにジレンマがあります。 どれだけ省力化しても人手でないと対応できない工程はたくさんありますし、スペースも必要になります。 そうすると、協力会社と連携してピーク時の負荷を分散したり、上流工程の設計や下流工程の組立まで対応することで 付加価値を高めたりといった対応が必要になってきます」(中山専務)。

「お客さまからは、大きな製品も対応してほしいとか、サブアッシーまで対応してほしいといったご要望もいただいています。 今後は、近隣の協力会社との連携を強化しながら、新規開拓と受注拡大につなげていきたい」(中山社長)。

溶接が完了した筐体
1溶接が完了した筐体
ステンレス製品(SUS304・板厚6mm・8mm
2ステンレス製品(SUS304・板厚6mm・8mm
ソフト開発を行うグループ企業がデザインし、同社が制作した中年のノベルティー
3ソフト開発を行うグループ企業がデザインし、同社が制作した中年のノベルティー